とにかく美術館の学芸員として働きたいという思い。

私は1999年の4月から札幌芸術の森美術館の学芸員として働き始めました。学生時代は関東の大学で美術史学を専攻し、特に浮世絵を中心とした日本近世絵画史を学んでいましたので、彫刻や現代美術を活動方針の軸とする札幌芸術の森美術館とはまるで対極にある領域であったわけです。専門領域や居住地域など選り好みしていてはなかなか学芸員にはなれない時代で、研究分野へのこだわりよりとにかく美術館の学芸員として働きたいという思いの方が勝っていたのもまた事実でした。
はじめは先輩学芸員に付き、見るモノ、得る知識、出会う人々、全てが新鮮で毎日が勉強の連続で、時間も忘れて展覧会の企画をしたり、作品の保存・管理に努めたりしていました。今でも肝に銘じているのは、「学芸員とはつまり勉強家である」という言葉で、北海道の美術館業界の礎を築いたかつての館長からの教えです。
20年間の札幌芸術の森美術館勤務を経て、今、私は、当財団が運営するもう一つの美術館、本郷新記念札幌彫刻美術館に場を移し、学芸業務のみならず、庶務経理、施設管理も含めた美術館運営の全般に携わっています。

仕事の様子

地域作家と協働した展覧会。
美術館学芸員としての確かな自信を得た。

これまでで印象に残っているエピソードは、採用5年目の終わり頃、地域作家6人とともに作り上げた展覧会の「さぁ開幕」だ、という初日の開会式に寝坊したことです。遅くまで展示作業をしていて、スーツに着替えるために家に帰ったら寝てしまったのです。ただ、作家の方々がそれぞれのスピーチで、「今はここにいませんが、担当の岩崎さんが…」と口々にねぎらったり、感謝してくれたというのを後で聞き、「作家たちの信頼を得られるような働きができたのかな」と美術館学芸員として確かな自信を得ることができました。
けど、もちろん遅刻はいけません。

現場での様子

完成度の高い作品、
透徹とした世界観を持つ作家に出会うと、
この職業に就いて本当に良かったなと思う。

休日でも、他の美術館やギャラリーに足を運んで展覧会を見て回ります。地域の美術の動向に目を光らせているわけです。その地道な積み重ねが、前述したような地域作家のテーマ展に結びついたりします。また、ドライブも好きであちこち行きます。北海道の自然や風土に直に触れ、「北方神獣」という動物を主題とした絵画展を企画するに至ったりもしました。
完成度や精度の高い美術作品を間近に見たとき、透徹とした世界観を持つ作家に触れたとき、この職業に就いて本当に良かったな、と深く実感します。200万都市札幌の芸術部門を担う財団には、あらゆる芸術分野の専門家が集っています。芸術文化の根が生え、花が開き、実るための土壌作りをともにやってみませんか?

彫像を洗う様子